takshigaempのブログ

救急医!志賀隆 Takashi Shiga MD MPH

米国救急専門医です! たらい回しをなくしたい!ヘルスリテラシー・情報格差の改善を!元気で個性的な人材を育成をしたい! ※発言・文章は個人のもので組織のものではありません

アナフィラキシーには「オッサン筋注」か?エピペンか? M3連載より抜粋

2015年に大阪府高石市の病院で当直を務めていた非常勤医師がアナフィラキシーの治療で適正量の2倍を超えるアドレナリンを点滴静注で投与した結果、患者さんが亡くなってしまったという報道が今月初旬にありました。救急対応をある程度は経験した医師からすると「アドレナリンの点滴を最初から?」「本当?」と思うところもありますが、「餅屋は餅屋」であり、それは医師の専門性にも言えること。アナフィラキシーの対応を随分していない場合や、疲労が蓄積している状態で緊急時対応を担った際などは、起こり得るとも思います。そこで今回は、アナフィラキシーの初期対応について、医療安全の視点から提案も含めて書いてみたいと思います。キーワードは「短期記憶の低下」と「制約の原則」です。

●短期記憶の低下はいつ誰に起こるのか?

 まず短期記憶についてですが、知的能力の高い人の特徴は短期記憶が優れていると言われています。医学部受験を乗り越え、医学部6年間を闘い、国試受験に合格した医師のほとんどは短期記憶が優れていると言えるでしょう。ただ、これには問題点があります。この短期記憶というのは、

・急いでいる
・緊迫している
・課題がとても多い

などのストレスがかかった状況では著明に低下してしまうのです。常日頃対応している知識や業務であれば、長期記憶となっているため、「久しぶりに自転車に乗る」といった具合で問題なくこなすことができます。しかし、夜間外来や当直の際に自身の専門でない分野の緊迫した患者さんに対応する場合には、短期記憶をつかさどる脳の部分がストレスにより圧迫され、機能低下や機能不全が起こり、覚えていたはずの知識などを活用できなくなることがあります。

 アナフィラキシーの治療ではアドレナリンの投与が必要です。通常は筋肉注射から始めますが、場合によって微量の点滴や微量の静脈注射を行うこともあります。ただ気を付けなければならないのは、静脈投与の際にアドレナリンが過量になってしまうと、患者さんに不幸な結果が起きることがあります。アナフィラキシーに対応する際、毎回アドレナリンを投与する際の適正量を計算できれば良いですが、急がなければならない状況も多々あります。

 こんな時に頼りになるのが語呂合わせです。もちろん、アナフィラキシーの診断と治療については色々と大事な点やエビデンスはありますが、あえて私は、友人の中山祐次郎先生(総合南東北病院外科医長)が作ってくれた語呂合わせ

アナフィラキシーにはアドレナリンのオッサン筋注!」

を研修医の先生方に唱えたいと思います。もうお分かりですよね?「オッサン」とは「0.3mg」の語呂合わせ。「オウ、テン、サン」から・・・「オッサン」になります(笑)。少し無理があるような気もしつつ、だからこそ覚えられそうですよね?アドレナリン0.3mg筋注は、アナフィラキシー治療の本丸です。アドレナリンを投与するのは常識なので、用量と投与経路をばっちりカバーしている「オッサン筋注」とだけ覚えてしまい、緊急時の応急処置としてまず実施していただき、その後、専門医などに応援を求めたり、対応マニュアルを読んでいただくのが良い、と思います。

●制約の原則

 次に制約の原則です。いわゆる「エラープルーフ」という考え方ですね。医療安全を確保するための取り組みは色々とありますが、私がハーバード大学の大学院で医療安全について学び、以前の病院にて医療安全委員会の副委員長を5年ほど務めた経験から重要性を実感しているのが、医療安全の原則として「エラーやミスが起こらないように仕組みを作る」ことの重要性です。よく知られているのは、例えば「二酸化炭素ボンベの配管は酸素ボンベの配管とはつながらないようにする」で、直近では2012年に大規模急性期病院で二酸化炭素と酸素のボンベの混同があり、患者さんの容態が悪化するというケースがありました。現在では基本的に、医療用の二酸化炭素のボンベは酸素とはつながらない形状になっています。

●院内ではエピペンが「エラープルーフ」では?

続きはこちらから ^^

 

https://www.m3.com/news/iryoishin/668671