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救急医!志賀隆 Takashi Shiga MD MPH

米国救急専門医です! たらい回しをなくしたい!ヘルスリテラシー・情報格差の改善を!元気で個性的な人材を育成をしたい! ※発言・文章は個人のもので組織のものではありません

マルチタスクせねばならん… 落とし穴は?

メールなどの通知を必要最低限にする、メール、FBやTwitterを一定時間みないようにするなど、マルチタスクは避けられるなら避けたほうがいいのは科学的に検討されているところである。

 

ただ救急医もそうだがある種の職業ではマルチタスクを避けられない…その落とし穴は?

 

まずは定義から 

一般に同時並行で2つ以上のタスクを行うことをマルチタスクという。

 

救急医は複数の患者さんの複数のタスクを同時に進めねばならない環境にある医師である。今、米国の救急医の養成プログラムではマルチタスクが救急医の必須の能力として挙げられている。

コンピューターなどでは演算素子を分割使用して同時並行で複数のタスク処理をすすめることが可能である。しかし、人間では同時並行でタスクを進行させているように見えても、実は1つのことにしか集中できないものである。そのため、マルチタスクという用語より「タスクスイッチ」という言葉の方が適しているという指摘もある。

 

人は同時並行でタスクをすすめることができているようにみえて実は細切れのシングルタスクを行ったり来たりしている「タスクスイッチ」をしているのが人間の現状である。救急では、どうしても複数の患者さんが来院するため、シングルタスクを直列して仕事をすることができない。結果として、タスクの中断が頻繁に起きる。タスクAの最中にタスクBの依頼をすると、タスクAを完了できないことがあることは知られている。そのため、飛行機のパイロットの離・着陸時にはSterile cockpitといって、必要な会話しか認めなれない規則となっている。また、看護師も薬剤のミキシング中には声をかけないというのもルールになっていることが多い。

 

 タスクスイッチをすることでタスクの完了に問題があることに加えて他の問題もある。タスクAからBにスイッチしタスクAに戻った場合には、タスクAの内容を再度想起する必要がある。この再度の想起する際の時間や精度の低下がタスクスイッチによる非効率性を生み出すことになっている。

 

Ann Emerg Med. 2001 Aug;38(2):146-51.

Work interrupted: a comparison of workplace interruptions in emergency departments and primary care offices.

PMID:    11468609

 

Can You Multitask? Evidence and Limitations of Task Switching and Multitasking in Emergency Medicine.

Ann Emerg Med. 2016 Aug;68(2):189-95.

PMID:     26585046