takshigaempのブログ

救急医!志賀隆 Takashi Shiga MD MPH

米国救急専門医です! たらい回しをなくしたい!ヘルスリテラシー・情報格差の改善を!元気で個性的な人材を育成をしたい! ※発言・文章は個人のもので組織のものではありません

“おじさん世代 ” の価値観のままで大丈夫?!研修医を支える指導医とは

新しい研修医を迎えてから約3カ月が過ぎ、いよいよ先生方の職場にも研修医の先生が本格的にローテーションされている頃かと思います。一人一人個性があり、

 

・元気があってハキハキしているようで、意外と仕事は抜けている
・少し自信がないように見えるが、コツコツと成長する
・手技には才能を感じるが、看護師やコメディカルとうまくいかない
・非常にそつなく能力が高いが、定時帰宅に強いこだわり、エクストラな仕事は断固反対
・ものすごい自信があり自分の世界観はあるが ものすごく打たれ弱い

など、いろいろな研修医の先生がいらっしゃるかと思います。正直、「こんな才能のある若者と働けてよかった!」と思う時もあれば、「やる気あるのか?今の研修医は!しょうがない、点滴もオーダーも診療録も、全部自分でやろう…今はこの先生には最小限じゃなければ」と肝を据えないといけない時もあろうかと思います。ついつい「私が研修医だった頃は…!」と武勇伝や頑張ったエピソードを語りたくなってしまう衝動に駆られる時もないでしょうか?

 

 一方、昨今では「エアポート自撮りおじさん」という言葉がSNSでも拡散しているように、指導医世代への若者からの風当たりは弱くはないです。

 

 医療の世界も含めて40代、50代となってくると、自然と役職や権限を持つ割合が増えていきます。人間としての内面の成長よりも、「役職」や「権限」から尊重されることを、自身の成長と勘違いしてしまうこともあるのではないでしょうか?日本大学アメリカンフットボール部の一件のように、昨今、おじさん世代の起こしているガバナンス上のトラブルの一因には、この「メタ認知不足(自分を客観視する機会や能力の不足)」があるかもしれません。こんな中、われわれがどうやって「新世代」の研修医の先生と二人三脚をしていくか?を今回の話題にしたいと思います。

 

 以前のトピックでも紹介しましたが、今の20代の価値観は40代以上の価値観とは大幅に違っていて、

「社会のために役立ちたい」
「自分の可能性を試したい」

と回答する人の割合は低下しているのに対し、

「友人や家族との時間を重視したい」
「金銭的な成功を」

という人の割合が増加しています(参考1)。まさしく「俺達の頃はやる気があって一日でも早く良い医者になってやると燃えていたもんだ!」と言いたくなる気持ちも出ますよね。ただ、研修医のマッチングでの調査を見ると純粋な「経済面」よりも「臨床医」としての成長を大事にしているところが伺え、少し安心できます(参考2)。

研修医の調子が悪いみたい…どうしたのかな?

 救急科指導医という立場では急病やストレスを抱えた患者さんの診療にはよく当たりますが、純粋なうつ病の患者さんと接することは、精神科や心療内科産業医の先生方に比べると圧倒的に少ないところです。しかし、研修医の指導者になってくると話は違ってきます。毎年必ず「遅刻が増えてきた」「医療ミスがあった」「お酒のトラブルがあった」「パワハラやセクハラ関連のことがあった」「体調不良で1週間休んだ」「あまり眠れていなくて表情が暗い」などの事案に遭遇します。こんな時に「研修医のやる気」について指導医として知識を得ているとうまく対応できる可能性があります。

 有名な筑波大学の前野先生たちの研究では、初期研修医が始まると3カ月程度で25%の研修医がうつ状態になるということが知られています(参考3)。では、学生や研修医にとって大きなストレスとは何なのでしょうか?

 研修医にとってのストレスには、3種類のギャップが影響すると言われています(参考4)。1つ目は仕事の束縛時間が長い、当直で眠いのに働かなければならないなどの生理的なストレスのことで「生活ギャップ」というものです。

 2つ目は上述した自分の理想や周囲に求められている姿と、現実のできない自分の姿のギャップで「プロフェッション・ギャップ」。

 最後3つ目は患者さんや他職種など周囲の人に、たとえ文句を言われても怒ったりしない、遅刻をしないなど社会人としての振る舞いを求められる「社会人ギャップ」です。

 今までは学生であった人が、ある日突然白衣を着て医師として社会人らしさを求められるため、こういったギャップを大きく感じストレスを感じてしまうのです。

指導医は「3つのしない」を!

 

 このように日々多く悩みを抱えている研修医の先生に指導医として行ってはいけない「禁忌事項」は、あのタレントの高田純次さんが言っている「3つのしない」に通じるかもしれません。それは、

 

・昔話をしない。
・自慢話をしない。
・説教をしない。

です。実際には、全くこれらがないと指導そのものが困難かもしれません。私もつい先日、長めのお話や自分の研修医時代のお話をしてしまい、、、反省をしたところです。

 昔話と自慢話の難点は、話を指導医から始めた場合、「話を聞きたい!」「役に立ちそう!」という研修医の希望ではなく、「頭にきた!教えてやりたい!から聞かせたい」という指導医の気持ちから生じているところです。結果、お互いのニーズが噛み合わず、あまり生産的にならないでしょう(参考5、成人教育の原則「応用性の即時性」「生活からの必要性」参照)。

 説教は、研修医を成人として尊重している姿勢が十分でない場合があり、指導医の価値観を一方的に押し付けている危険性があります(参考5、成人教育の原則「自己主導性の増大」を参照)。

 このため、指導医は研修医の先生の表情や姿勢を見て、「納得して聞いているか?」「演じさせていないか?」「話が長くないか?」といったように自分の姿を俯瞰してみることも必要でしょう。人間の集中力は15分、学べるポイントは3~5つ程度と言われます。私はベッドサイドでの指導は5分でなるべく完結して次に移るように心がけています。

 指導医としては、熱血し過ぎてどうしても「3つのしない」の反対、をしたくなるかもしれませんが、ストレスを抱えて頑張っている研修医の先生のためにもぜひ気配りをお願い致します。

 

続きはエムスリーにて ^^

 

https://www.m3.com/news/iryoishin/611921