救急でのリーダーシップって?
救急医療においては
・どのような事態が起こるか予想が難しい
・患者の重症度が高い
・緊迫した場面
などの要素から、現場でのリーダーシップは非常に重要です。
では、医療の現場でリーダーシップを含めたチームワークのトレーニングが長らく行われていたかというと、残念ながらそうではありません。医療事故の66%はコミュニケーションの不足から来ているという報告もあるくらいです(参考1)。そして、コミュニケーション不足はチームワークの機能不全に起因します。
医療現場のチームワークの基本は、米国の航空業界のトレーニングなどを基に米国防総省と米国医療研究品質局(AHRQ)が医療のパフォーマンス向上と患者の安全を高めるために開発した「Team STEPPS(チームステップス=TS)」です(参考2)。これらのチームトレーニングについては米国全体で取り組まれており、その結果についてはエビデンス(科学的成果)も出ています(参考3)。
リーダーシップの基本
チームを有効に機能させるために最も鍵となるのはチームのリーダーです。リーダーに必要なことは、チームにゴールや目標を事前に提示し、いわゆる「メンタルモデルの共有」を行うことです。また、プロセス進行中に、チームがうまく働いているか、メンバーが機能しているか、など全体を把握し、適宜方針を決定・調節していく必要があります。さらに、人的・物的資源を把握し、最大限に活用しなければなりません。調節し指示を出すことは大事ですが、一方でメンバーがためらいなく自由に発言できる雰囲気を作り、メンバーからの情報を有効に聴取することも大事です。
救急の現場などの緊迫した場面で、あるタスク(課題)やプロセス(工程)を完遂するために、リーダーは以下の三つを行うことが推奨されています。
A)ブリーフィング
業務を始める前に行う打ち合わせを指します。リーダーはどのようなチームメンバーがいるのかを確認し、チームメンバーはそれぞれどのように役割分担をしていくのか指示します。また、チームが円滑に行動できるように、病院の手術室や集中治療室の状況、当直の医師やコメディカル(医療スタッフ)の状況などを確認し、環境を確立します。
そして「患者さんが到着してから1時間以内に呼吸や血圧などを落ち着かせて手術室に入室する」などの具体的な目標、「急に不整脈がおきて心肺停止になる可能性があるので不整脈のモニターを行うこと、電気ショックがすぐに可能なように装置をつないでおくこと」などの起こりうる緊急時対応を話し合います。
B)ハドル(業務中の打ち合わせ)
ハドルとはもともと、アメリカンフットボールで、次のプレーを決めるフィールド内での作戦会議のことです。業務を進める中で、状況の再確認、実施されている計画の強化、計画調整の必要があるかといった評価をするために、臨機応変に行います。
C)デブリーフィング(結果の報告と事実確認)
緊迫した場面ではあっという間にいろいろな事象が起こり、時に同時進行でさまざまなチームメンバーが作業を進めていきます。結果としてチームの目標が果たせたとしても、振り返ると反省点が何かしらあることが常です。そのため、チームのプロセスが終了後、メンバーとデブリーフィングを行い、今後のチームワークプロセスの向上を図ります。
これらの行動を率先して行うのがリーダーシップであり、上記A)~C)はリーダーだけでなく他のメンバーにとっても必要なことです。
長期的なリーダーシップに必要な準備
良いチームが医療を提供するためには、前述のようにあるタスクやプロセスが生じた際に必要とされる短期的なリーダーシップだけでなく、普段からチームワークを醸成する長期的なリーダーシップも必要です。「当事者意識」を持ったチームメンバーが育つように普段からチームづくりをしていくことが求められます。
(参考1)米国のチームステップス(TS)の情報が無料で見ることのできるサイト:https://www.ahrq.gov/teamstepps/instructor/fundamentals/index.html
(参考2)チームステップスの日本語の資料を見ることのできるサイト:http://www.mdbj.co.jp/tsja/index.php
(参考3)チームトレーニングの導入によって手術関連の死亡が減ったことを報告した論文:Neily et al. Association between implementation of a medical team training program and surgical mortality. JAMA. 2010 Oct 20;304(15):1693-700.