takshigaempのブログ

救急医!志賀隆 Takashi Shiga MD MPH

米国救急専門医です! たらい回しをなくしたい!ヘルスリテラシー・情報格差の改善を!元気で個性的な人材を育成をしたい! ※発言・文章は個人のもので組織のものではありません

優秀な医師ほどバーンアウトする? 

ーーエムスリーの連載から部分的に転載ですーー

 

私が2006年に渡米して2年目の冬、ミネソタ州メイヨ―クリニックにいた頃でした。日曜日の朝、当直明けでくたくたな状態のままコーヒーショップでエスプレッソを注文して待っていると、「私が注文したのは〇〇ラテの■サイズなのに!!あなたたちは何を考えているの!これでまた何分も余計に待たなければならないわ!信じられない!」と大きな声で店員に話をしている女性がいました。どこかで聞いたことのある声と思い振り返ると、外傷外科をローテ―トしているジャネット(仮名)でした。

 その頃の私は、徐々に救急レジデントとしての成長を実感している時期。ジャネットは、私が渡米1年目の冬に外傷外科ICUのローテーションを一緒にやり遂げた仲間の一人でした。

 当時メイヨーの外傷外科は「指導医が熱血」と評判(?)で、朝5時半から患者さんのラウンドをして4~5日に一度は当直が回ってくるという環境。大変忙しく、互いに疲れ果てていましたが、ジャネットはデータの把握や患者さんのアセスメントが常に的確でした。さらに患者さん思いで、ご家族とも信頼関係を構築していて「すごいレジデントだなあ」と思っていたのを覚えています。

 しかし2年目、「これがあのジャネットか?」と思うほど印象が変容してしまいました。私のいる救急から外科の患者さんのコンサルトをした際には「こんな時間に来るなんて!何を考えているの!」「あなたたち救急と違って私たちは忙しいの!!」など、極度の疲労からか、冷静さを失った発言を繰り返していました。「あの優秀なジャネットが、随分変わってしまったなぁ」と感じていた矢先に、前述のコーヒーショップでのエピソードがありました。ジャネットには声をかけられませんでした。

 その後、3年目となった私はシニアレジデントとしての仕事やフェローシップ応募の準備、論文執筆などで忙しくなり、ジャネットのことは頭のどこかにいってしまっていたところ「ジャネットが外科を辞めて別のプログラムに移った」と友人から聞きました。彼女だけでなく、何人もの友人が別のプログラムに移ったり、レジデンシーを中止したり、診療中にノンプロフェッショナルな言動をするようになったりしていました。今ですと、SNSへの書き込みなども該当するかもしれません。そんな姿を見たり、話を聞いたりして、残念な気持ちになった自分を覚えています。その当時はどうしたらいいか分からなかったのですが、今こうして指導医になってみると、「それらの変化はバーンアウトであったのだろう」と思います。今は、「バーンアウトの症状のある同僚やレジデントがいたら、なんとしても助けたい」と思っています。

バーンアウトは「人生の急停止」、避けるには?

 ではどのようにしてバーンアウトの状態になってしまうのでしょうか?具体的には医師自身の「感情・人生の優先順位・成長の実感・周囲からの助け・心身の健康」が満たされていない場合にバーンアウトが起こります。日本では、医師のバーンアウトウェルネス(健康を基盤に生き甲斐をもって生き生きとしている状態)について記載された本があまりありません。また、日本の文化で重要な「勤勉さ」が、このような問題は個人の問題だとして片付けてしまう傾向があります。これは大きな間違いで、海外ではウェルネスの教育プログラムはよく取り入れられています(参考1)。

 フランスで行われたSESMAT研究では、医師の30~40%がバーンアウトを感じたことがあり、特に救急医の離職やバーンアウトが、他の専門診療科よりも多いと指摘されています。仕事と家族の対立、チームワークの質が、それぞれバーンアウトの独立危険因子であるとも指摘されています(参考2)。

 バーンアウトになる要素は大きく分けて下記の3つです(参考3)。

・感情の消耗(極度の疲労などの影響で)
・個人的な業績の興味の低下(仕事の意味や目的を失うことを含む)
・非人格化(まるで物のように扱われていると感じる等を含む)

 一般的には、この3要素の組み合わせで起こると定義されており、比較的精神面を意味するウェルネスと、疾患に罹患していないなど身体面の健康の両方がなくなってしまった時に生じる、いわば「人生の急停止」です。うつ病が国際的に認められた公式の精神疾患なのに対して、バーンアウトは「職場で過度の要求にさらされた労働者に見られる機能不全や著しい疲労」などと定義されますが、バーンアウトの基準が国際的に定まっておらず、うつ病など他の疾患と明確に区別できていない状況も、職場での対処を難しくしていると言えます。このため、多くの医師が「どのようにバーンアウトに対処するべきか」という方法を知らず、じっと耐えることが多いようです。

●WLBを促進する7要素と、バーンアウトに対処する8つの方法

 バーンアウトは自殺、人間関係の悪化、アルコール・薬物依存などにつながります。さらに医師の場合は、診療の質、患者の安全、エラー、医療ミスの申し立て、患者の満足度・コンプライアンスにも関わってくるため本人だけの問題ではありません。どうしたらバーンアウトを避けられるのか?ですが、Bintliffらは、研究結果から7つの方法で医師の満足度と医療環境下でのワークライフバランス(WLB)を促進する有効性を報告しています(参考4)。

○ 有意義な仕事、他者の助けになる、自身の研修・能力と関連の薄い仕事を最小限とする
○ 能力や興味、リソースに見合った挑戦
○ 専門的な能力習熟の機会がある、成長を助けてくれるメンターの存在
○ プロフェッショナリズムや専門家としての満足度を育む文化がある
○ 自主的で柔軟性のあるスケジュール
○ プライベートを楽しみに価値のあるものにできる
○ 健康の向上

 医療の現場で共に研鑽を積む仲間としては、私がジャネットに対し「らしくないな」と感じた時などが、バーンアウトの兆候を捉えたと言える可能性もありますが、「時、既に遅し」の場合もあるでしょう。バーンアウトへの対処法についてBintliffらの研究では、下記8つを挙げています(参考4)。

 

私の対処法なども含めた続きはこちらで ^^

 

www.m3.com