takshigaempのブログ

救急医!志賀隆 Takashi Shiga MD MPH

米国救急専門医です! たらい回しをなくしたい!ヘルスリテラシー・情報格差の改善を!元気で個性的な人材を育成をしたい! ※発言・文章は個人のもので組織のものではありません

職場の雰囲気が悪いことで失う物って? ーM3連載から抜粋ー

朝6時に目覚ましが鳴る。眠い目をこすって疲れのたまった重い体を引きずり、顔を洗って着替える。カレンダーを見ながら「今日は当直だ…」とどよーん。冷凍食品のチャーハンと餃子を温めてかきこみ、午前7時に出勤。到着するなり前日の夜に使われた薬のオーダー、抜けた点滴、採血などを終えたと思ったら、あーもうカンファレンスだ!患者さんを足早に回ってレントゲンとカルテを集めて……。

 む!なんだこの人は?見学の学生さんなんだな。とっさに口から出るのは、「そこのスペース使わないで!」「さっきも言ったでしょ!」「きちんと考えて!」「こっちの状況をみてよ!」。学生さんについ浴びせてしまうきつい言葉。そして後悔する──。

 これは初期研修医のころの私自身の苦い思い出です。

 疲労がたまっている時や多忙な時は、どうしても厳しい言葉が出てしまうことがありますよね。本来なら、「将来の仲間の候補としてとても有力」な学生や初期研修医が現場に回ってきたら、「成長した実感」や「職場の雰囲気の良さ」を感じてほしいところです。しかし、実際の現場では、「あの研修医はダメだ!」「今の研修医は自分で調べない!」「彼らはお客さんだから!」などの発言が聞かれることもあります。そんな職場があなたの病院にはないですか?実際は、どこの病院にも部分的にあてはまるところがあるのではないかと思います。

●職場の雰囲気が悪いことで失うこと

 誰だって雰囲気の悪い職場で働きたくはないですよね。一方で、事情があって一時的に雰囲気の悪い職場で働かざるをえないこともあるでしょう。では雰囲気の悪い職場の問題点はどのようなところにあるのでしょうか?

 雰囲気の悪い職場の多くは、情報共有が不明瞭です。逆に言えば、情報が一部で閉ざされていてなかなか伝わってこない場合には、必然的に職場の雰囲気が悪くなってしまいます。そうすると、いろんな臆測が生じたり、不正確な情報での行動が起きてしまうようになります。これは、ミスにつながりやすいんです。

 また、職場の雰囲気が悪いと早期離職につながります。離職率が高いと常に採用と教育が必要になり、組織としてゆとりがなくなります。結果さらに職場の雰囲気が悪くなるという悪循環になりかねません。

 一方、雰囲気の良い職場はどうでしょう。医療の現場では、救急外来の医療安全意識が高ければ、ミスの手前でストップされることが多いと報告されています(参考1)。患者さんに迷惑がかかる前に、なんとかストップしたいところですよね。

 では、「雰囲気が良い」とはどのような職場なのでしょうか?ビジネスの世界の情報を見てみましょう。ハーバードビジネスレビューでは過去の記事で、「夢の会社の6つの要素」について解説をしています。それらは以下の通りです(参考2)。

・働く人の多様性がある
・情報が抑圧されたり歪んだりしない
・会社が社員に価値を与える
・会社が意味のある何かに向けて活動している
・仕事にやりがいがある
・ばかばかしいルールがない

 当たり前に聞こえますが、すべてを実現するのは簡単ではありません。例えば多様性についてですが、女性医師を増やし長く働ける職場を作ることは、男性医師の働く環境を良くすることにつながります。しかし、職場の考え方や雰囲気が硬直しているとなかなか女性が輝くような環境づくりに舵をきれません。

 実現に向けてどのようなことをすれば良いのか。私は、2011年にアメリカから帰国をし、その後東京ベイ浦安市川医療センターの救急部門の立ち上げに、院長補佐兼救急部長として加わりました。その際には、以下の3つの大きな方針を立てました。

・権限移譲
・情報の透明性
・わかりやすいルール

 「各部門にどこまで権限と責任が与えられているのか」を事前に明らかにしないと、各部門の責任者は主体性を持って行動ができません。意味のある仕事、やりがいのある仕事の大部分はこの主体性をどのように持ってもらうかにかかっています。

 救急部門の中でも、「外傷はA先生、小児救急はB先生」といった具合に、得意な臨床分野を決めてもらいました。担当する分野の他部門との交渉、質改善プロジェクトや研究をチームの他のメンバーがサポートして、最終的に個人のブランド確立につなげるようにしていました。

 情報共有に関しては、部門内の医師のみが閲覧できる環境で、部門の検討事項、決定事項、現在の進捗状況、短期・長期目標に関して、メンバーが閲覧と投稿をどんどんできる環境を作りました。メールも可能な限り部門の全メンバーに転送やCCをするようにして、私の考えや取り組み、メンバーの考えが電子的に共有されるようにしました。もちろん、オフラインで週に一度スタッフのミーティングをして顔のみえる関係も維持しました。

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